電気抵抗の単位であるオームや交流回路のインダクタンスなど、電気回路の抵抗分を意味する用語はいくつかあります。しかし、「コンダクタンス」という言葉を詳しく知っている人は多くはないのではないでしょうか。
コンダクタンスを知っておくと、電気回路の計算時に非常に有効です。この記事では、電気工事士や電気工事施工管理技士などの電気系資格試験で避けては通れないコンダクタンスについて解説します。
コンダクタンスの定義や単位
まずは、コンダクタンスについて、電気的な定義や必要性を解説していきます。
定義や記号、単位について
コンダクタンスとは、国際単位系で定義された国際規格の物理量です。電気抵抗が電流の流れにくさであるのに対して、コンダクタンスは電流の流れやすさの指標となります。
電気抵抗のΩ(オメガ)はオームの法則などで電圧と電流から算出され、「電流の流れにくさ」として定義されています。
電気抵抗は中学の理科などでも習う一般的な指標ですが、コンダクタンスはその電気抵抗の逆数で算出され、電気抵抗が2Ωだった場合、コンダクタンスは1/2(0.5)になります。単位はS(ジーメンス)となり、記号はGで表されます。
電気抵抗の記号をRとしてコンダクタンスを式で表すと、
G=R分の1[S]
となります。
コンダクタンスの必要性
コンダクタンスを計ることの効果は、並列回路を計算する際に発揮されます。
並列回路でたくさんの分岐があり、抵抗値で表記されていた場合は、合成抵抗を求める際の各回路の抵抗値の逆数を足していったものを、さらに逆数にするという複雑な計算をする必要があります。
各並列回路の抵抗をコンダクタンスにしていった場合、コンダクタンス分を加算した合成コンダクタンスG[S]に電圧を乗算すると、並列回路の総電流が簡単に求められます。複雑な並列回路になればなるほど、コンダクタンスによる計算が有効となります。
抵抗(レジスタンス)との違い
抵抗はレジスタンスとも呼ばれますが、コンダクタンスはレジスタンスの逆数です。
抵抗Rが大きい場合、コンダクタンスは小さくなります。この場合、回路の電流Iは流れにくくなります。逆に抵抗Rが小さい場合、コンダクタンスは大きくなり、電流Iは流れやすくなります。
電流が流れやすい場合はコンダクタンスが大きくなる関係性があるため、コンダクタンスは電流の流れやすさの指標となるのです。
そのほか似た用語
コンダクタンスのほかにも、電気分野には似たような言葉があります。抵抗や電流、電圧だけでも混同しやすい用語がありますが、その違いをきちんと理解することで、電気計算をより正確に行えるようになります。
アドミタンス
アドミタンスとは交流回路における電流の流れやすさを示す指標で、記号はY、単位はコンダクタンスと同じ[S](ジーメンス)です。
交流回路において抵抗と同じ電流の流れにくさを示す指標に「インピーダンス」という指標がありますが、アドミタンスはコンダクタンスと同様、インピーダンスの逆数を計算することで求められます。
サセプタンス
交流回路の容量性、誘導性のインピーダンスは、抵抗分のインピーダンスと異なり、交流周波数が変化することに応じて変化します。サセプタンスとは、交流回路における容量成分、誘導成分のインピーダンス分の逆数をとった部分のことを指します。
誘導率
誘電率は交流回路の容量性負荷でもあるコンデンサの充電のしやすさを指す指標で、電気計算の際に活用することがあります。
コンデンサは電荷をためる(充電する)ことができますが、誘電率が大きいと、それだけためることができる電荷量が多くなります。これに応じて容量性インピーダンス、その逆数のサセプタンスも変化します。
電気回路は大きく2つに分けられる
電気回路は、大きく直流回路と交流回路に分けられます。ここでは、コンダクタンスやアドミタンス、サセプタンスが2つの回路においてどのように関わっているのかを解説します。
直流回路
電圧が時間ごとに変化せず、+と-が固定している回路のことを直流回路といいますが、小学校の理科でも習う基本的な電気回路です。直流回路で関わってくる負荷は抵抗分のみとなるため、直流回路の計算を行う場合はコンダクタンスのみが必要となります。
交流回路
交流回路は、直流回路の抵抗分に加えて誘導性負荷のコイルや容量性負荷のコンデンサなどが含まれ、直流回路よりもより複雑な構成となります。
インピーダンスは直流回路の抵抗分に加えて誘導性、容量性抵抗分を考慮したもので、交流回路のインピーダンスの逆数がアドミタンスになります。コンダクタンスは実数部分、サセプタンスは虚数部分を構成しますが、ベクトルとして表記されるアドミタンスがあるため、計算にあたってはベクトル計算に慣れる必要があります。
コンダクタンスの計算方法
では、電気の計算の際にコンダクタンスを使った計算方法を具体的にご紹介します。
直列接続の場合
直列接続の場合は、「電圧E=電流I /コンダクタンスG」という計算式になります。また、電流を求める場合には「コンダクタンス×電圧」で計算します。
コンダクタンスが複数ある場合、回路電圧、電流を求めるには合成コンダクタンスを算出する必要があり、合成コンダクタンスを求めるには、
1/(1/コンダクタンス1+1/コンダクタンス2+ …)
という複雑な計算を行います。
並列接続の場合
並列接続の場合、直列接続と異なり、並列で分岐している回路ごとに同じ電圧がかかっているので、それぞれの分岐回路ごとに直列接続で電流を求めることができます。並列回路の各回路の電流は直列接続の時と同じ「電流I=電圧E×コンダクタンスG」で求めることができます。
これは並列接続の分岐1個分の電流となるため、並列接続の回路が複数あった場合は「全電流=電圧E×コンダクタンスG1+電圧E×コンダクタンスG2+……」と足し合わせていくだけで、簡単に並列回路の電流が求めることができます。合成抵抗も、全電流を計算したうえで電圧を電流で割る逆算をする形で求めることができます。
オームの法則を使う場合
オームの法則は、
電圧E=抵抗R×電流I
という計算式で知られていますが、直列接続であれば、抵抗を単純に足していくことで回路の全抵抗(合成抵抗)を求めることができます。この合成抵抗を用いて、回路電圧と回路電流を算出していきます。
コンダクタンスの場合は、合成コンダクタンスを求めるために複雑な計算をする必要があり、並列接続の場合、回路電流、電圧を求めるために合成抵抗を算出する必要があります。その場合、各分岐回路の抵抗値の逆数(1/R)を足し合わせていき、合計の抵抗値をさらに逆数にするという複雑な計算を行います。
1/(1/R1+1/R2+…)
これは、コンダクタンスで計算する場合の直列接続時の計算と同様の計算方法をとるともいえます。
逆数を2回も行うと割り切れない数による数値に誤差なども発生して、計算ミスや計算結果のばらつきなどにもつながります。オームの法則で計算する場合は、直列接続の場合は簡単に計算ができ、並列接続の場合は複雑になるというコンダクタンスを用いて計算する場合とまったく逆の形になることがわかります。
今までの求め方とコンダクタンスの計算例
計算の比較の例として、1Ω、3Ω、7Ωの抵抗を直列接続、並列接続の計算を行います。直流100Vの電源に接続した場合で考えてみましょう。
抵抗のままの計算例
直列接続の場合、合成抵抗は各抵抗値を足し合わせるだけで求められます。
1+3+7=11Ω
回路電流は電圧/合成抵抗で求められるので、下記の計算になります。
100V/11Ω=9.0909…A
並列接続の場合、合成抵抗は1/(1/R1+1/R2+1/R3…)と、逆数の和をとる計算となるので、
1/(1/1+1/3+1/7)=1/(1+0.3333…+0.1428571)=1/1.4761871…=0.677420…Ω
となり、回路電流は
100V/0.677420Ω =147.61A
となります。
コンダクタンスでの計算例
コンダクタンスは抵抗の逆数ですので、それぞれ下記の計算となります。
1/1 =1S,
1/3= 0.33S,1/7=0.142S
直列接続の場合は、合成コンダクタンスは抵抗の場合の並列接続と同じ計算を行うので、
1/ (1/1+1/0.33+1/0.142) = 1/(1+3.0303… + 7.0404….) = 0.0903….S
となります。
回路電流は電圧×合成コンダクタンスで求められるので、
100V×0.0903S=9.03….A
となり、抵抗で計算した結果とほぼ一致します。
並列接続の場合、合成コンダクタンスはそれぞれを足し合わせれば良いので、
1+0.33+0.142=1.472S
となります。
回路電流は、直列接続の時と同様に計算すると、
100V×1.472S=147.2 A
となり、こちらも抵抗で計算した場合と一致します。
双方の答えは一致しますが、コンダクタンスで計算した場合、直列接続、並列接続それぞれ楽に計算が可能になることがわかります。
まとめ
聞き慣れない「コンダクタンス」という言葉ですが、電気回路を理解するためには欠かせないものであり、電気施工管理や電気工事施工管理技士の資格取得を目指している人にとっては避けては通れないものです。
コンダクタンスの理解が深まれば、より楽に、かつ短時間でコンダクタンスを使用した回路計算の答えが導き出せます。電気施工管理や電気工事施工管理技士の資格取得を目指している人は、ぜひこの記事を参考にコンダクタンスの理解を深めてみましょう。
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